Im: iから疑う数の構成生活

この記事は、琉大AdventCalendar2022 の最終日の記事です!

adventar.org

目次

 

虚数なんて存在しません(断言)

今日は数の構成について語ってみたいと思います。

あんまり数学ちゃんと勉強しておらず断片的な知識で書いていくので、間違ったこと書いてしまわないか、想像するだけでだけで緊張します。

 

想像……?想像……

というわけで皆さんは虚数(複素数)のことを信じていますか?

2乗して-1になる「アレ」らのことです。

虚数は英語で「imaginary number」(想像上の数)というように、その存在は到底受け入れられません。異論は認めません。

 

まとめ…?

というわけで、複素数なんてよくわからないものなんていらないですね。

それではまた〜〜

(ちゃんと続きます)

 

 

 

 

 

 

 

〇〇数をを構成してみよう!

理系の大学生であれば、複素数に対して上記のような拒否反応を起こす人はあまりいないと思います。

とはいえ複素数に初めて出会ったときは、誰しも多少は抵抗を覚えたことでしょうし、複素数って、よくわからないものだな〜と感じている人もいると思います。

実は、実数のみを使って複素数を表現(構成)することができます。

 

とはいえ実数に初めて出会ったときは、誰しも多少は抵抗を覚えたことでしょうし、実数って、よくわからないものだな〜と感じている人もいると思います。

実は、有理数のみを使って実数を表現(構成)することができます。

 

とはいえ有理数に初めて出会ったときは、誰しも多少は抵抗を覚えたこ…………

実は、整数のみを使って有理数を表現(構成)することが……

 

とはいえ整数……

実は、自然数……

 

とはいえ自然数……

実は、ZF(ツェルメロ=フレンケル集合論)

 

という感じで、数をどんどん遡って、集合論の公理系であるZFまで辿っていきます。

みなさんが信じられる数にたどり着くまで、読み進めてみてください。

 

ダイジェスト版

すごく長くなったので、ダイジェスト版を書く予定です。

書いたらリンクを掲載する予定です。

虚数単位による複素数

2乗して-1になるような実数ではない数の一つを √-1 (以降iと表記) と表す。

複素数体は、実数体にこのiを追加して得られる、数の体系です。

 

複素数に関する重要な定理として代数学の基本定理があります。*1

これは実数係数または複素数係数の n次方程式が複素数の範囲で n個の解を持つという定理です。

しかし、その代償として複素数は、四則演算と両立する全順序 ≤ が存在しません。*2

 

 

複素数 z は、実数 a, b を用いて

z = a + b i

と表すことができます。*3

 

しかし、このような定義にはいささか問題があります。

「2乗して-1になるような実数ではない数i」が唐突に出てくる点です。*4

 

これが許されるなら、

 

「3乗して-1になるような実数ではない数の一つ ω 」

「4乗して-1になるような実数ではない数の一つ√i 」

*5

「2乗して 0 になるような実数ではない数の一つ ε」*6

「2乗して 1 になるような実数ではない数の一つ j 」*7

 

実数体に追加していいのではないでしょうか。*8

 

このような例を見ると、「2乗して-1になるような実数ではない数i」を導入すると、様々な疑問が生まれると思います。

というわけで、他の方法によって複素数を構成していきましょう。

 

実数対による複素数の構成

ここでは、複素数a+biのことはいったん忘れて、実数のペア同士の演算について考えます。

a,b,c,dを実数とし、実数のペア*9を (a, b), (c, d)とします。

このとき

加法を (a, b) + (c, d) = (a+c, b+d) 

乗法を  (a, b) × (c, d) = (ac-bd, ad+bc) 

で定義します。

 

(a, b)は複素数の実部、虚部であり、この実数のペアの計算は、本質的には複素数の計算と同じです。

よって、a+bi  は (a, b)と同一視することができます。*10

例として、

 

1 = (1, 0)

0 = (0, 0)

i = (0, 1)

2 - 3i = (2, -3)

 

当然、実数のペアの計算に「2乗して-1になるような実数ではない数i」は現れません。

このように、実数の存在を認めるなら複素数は実数のペアとして、形式的な構成を行うことができます。

 

このような構成方法はケーリー=ディクソンの構成法 と呼ばれ、複素数四元数八元数…… を構成します。*11

 

そのほかの複素数の形式的構成

ほかの形式的構成としては、多項式環既約多項式 x^2 + 1 *12で割って得られる剰余環によって、複素数体を構成することができます。*13

体論を勉強しているなら、こちらの方がより自然な構成方法といえます。*14

また2×2行列[[a, -b], [b, a]]とa+bi を同一視することによっても、複素数を構成することができます。

 

実数、それは上限を持つ順序体

このように虚数単位iという記号を用いずとも、実数によって複素数を表現することができます。

 

しかし、今度は「複素数を表現できてしまう実数の存在が悪い!」のではないかと、疑い始める人もいると思います。

 

というわけで次は、有理数を使って実数を構成していきたいと思います。

まず実数体の定義を行います。*15

実数体とは「順序体であって、空でない上に有界な部分集合の上限を持つもの」をいいます。*16

 

「空でない上に有界な部分集合の上限を持つもの」という条件は実数の連続性、または完備性と呼ばれます。

この条件は、実数の連続性公理とも呼ばれ、実数を特徴づけるものになります。*17

 

したがって次の目標は、有理数のみを使い上限が存在するような順序体を構成することが目標です。

 

無限小数としての実数

まず有理数とはどのような性質を持つでしょうか。

 

10進法において、0以上の有理数は有限桁の整数部分と有限桁の小数部分を持つ数として表されるか、*18 有限桁の整数部分と無限桁の循環小数として表されます。*19

逆に循環小数有理数になります。

したがって、ある数が有理数であることと、ある数が循環小数であることは必要十分条件です。

 

ここで、有限桁の整数部分と循環しない小数を持つ数を無理数と定義します。*20

このような定義では当たり前ですが、ある数が無理数であることと、ある数が非循環小数であることは必要十分条件です。

 

有理数無理数を合わせて、実数と定義します。

実数は、有限桁の整数部分と無限桁の小数部分を持つ数になります。

このようにして、実数を構成することができます。

 

無限小数は私たちが実数を認識、記述する際には馴染み深いものではありますが、

実数の性質を使った議論を行うのに、扱いやすい概念ではありません。*21

よって、無限小数以外での構成方法が求められます。

 

デデキント切断とは

実数の構成で有名な方法として、デデキント切断(デデキントカット)があります。

これは実数の数直線としての側面としての完備化です。

 

デデキント切断をざっくり述べると、全順序集合を大きい方と小さい方の二つの集合に分ける操作です。(数直線を2つに分けるイメージです((自然数、整数、n進法で有限小数となる有理数有理数といった順序体でこの操作が可能です。))

デデキント切断による実数の構成は、このような数直線を真っ二つに切り分ける操作そのものを数とみなすものです。

 

デデキント切断を厳密に述べると、

全順序集合Kに対して、以下を満たす2つの集合の組に分ける。

K = A ⋃ B, A ≠ ∅, B ≠ ∅, a∈A, b∈B ⇒ a < b

こうして得られる、集合の組(A,B)をデデキント切断といいます。((集合の組を分けることそれ自体ではなく、そうして得られる集合の組をデテキント切断と呼ぶところに、数学の巧妙さが見えます。

同じようなことは、写像を、ある要素からある要素へ写す操作自体ではなく、その対応規則とするところにも見えます))以降Aを下組、Bを上組と呼びます)

 

一般に全順序関係Kのデデキント切断には4つの場合が考えられます。

  1. 下組の最大元と上組の最小元が存在する。
  2. 下組の最大元は存在するが、上組には最小元は存在しない。
  3. 下組の最大元は存在しないが、上組は最小元は存在する。
  4. 下組の最大元、上組の最小元がともに存在しない。

自然数、整数の場合は常にパターン1です。

有理数の場合はパターン2、パターン3、パターン4が起きる。

パターン1が起きないのは有理数が稠密であるからです。*22

 

ここで実数をパターン2,3しか起きない順序体として定義する流儀もあります。

 

*23

 

デデキント切断による実数の構成

それでは実際に実数の構成を行います。

実数は有理数の完備化によって構成することができます。

 

それではまず、有理数デデキント切断によって、有理数の集合のペア (A, B) を得ます。

AまたはBに、最大元か最小元が存在する場合(パターン2,3)、その元を r とします。

このとき、有理数の集合のペア(A, B)をを r と同一視します。*24

 

AまたはBに、最大元と最小元が存在しない場合(パターン4)について。

この場合、有理数の集合のペア(A, B)は有理数とは同一視することができません。

しかし、なんらかの数と同一視することはできます。

無理数は、パターン4での同一視において得られる数と定義することができます。

(有理数で表せない数を無理数と素朴に定義したことと、有理数の集合に)

 

パターン2,3によって得られる有理数、パターン4において得られる無理数を合わせて、実数を構成することができました。

 

このようにして得られた数の集合が実数になっているかは、もう一度デデキント切断をすることで確かめられるでしょう。

どう頑張っても、パターン2か3しか起きず、パターン4は起きません(→すなわち新たな数はデデキント切断で作り出せない)。

 

実際にはここで終わりではなく、このようにして得られた数の集合に、四則演算と順序を入れる必要がありますが、割愛させていただきます。*25

 

デデキント切断してみよう

あまり釈然としない人もいると思うので、デデキント切断によって√2 を構成してみたいと思います。

 

有理数全体の集合をQとし、A, B の定義を次のようにします。

A :=  {x ∈ Q| x < 0 または x^2 < 2}

B :=  {x ∈ Q| x > 0 かつ x^2 > 2}

  • Q = A ⋃ B は成り立つ
  • A ≠ ∅, B ≠ ∅ は成り立つ
  • a∈A, b∈B ⇒ a < b は成り立つ

したがって、(A, B)はデデキント切断である。

さらにAは最大元を持たず、Bも最小元を持たないため

(A, B)はパターン4である。

 

ここで、二乗して2になる正の元を √2 と形式的に表記する。

このとき√2は

√2 := (A, B)  = ({x ∈ Q| x < 0 または x^2 < 2}, {x ∈ Q| x > 0 かつ x^2 > 2} )

 で構成することができます。

 

このように有理数デデキント切断によって実数を構成することができました。

ところで、整数のデデキント切断によって、何か新しい数を定義することはできるのでしょうか。

 

答えはできません。

整数は全順序集合のため、デデキント切断を考えることができます。しかし、整数は稠密ではないため、デデキント切断を行っても、パターン1のみしか起きません。

新たな数を生み出すにはパターン4が起きる必要があるのです。

したがって、整数のデデキント切断と、数の同一視によって得られる数は結局整数になります。*26

 

有理コーシー列による実数の構成

デデキント切断は実数の数直線としての側面を持った完備化の方法でしたが、

有理コーシー列による完備化は、実数の無限小数としての側面を持った完備化といえます。

なぜなら、無限小数は有理コーシー列と自然に見なすことができるためです。*27

 

有理コーシー列によって実数を構成するメリットとしては、デデキント切断によって構成する実数に比べて、四則演算が定義しやすい点にあります。*28

 

それでは実数の構成するために、まず有理コーシー列の定義を行います。

(加えて、有理コーシー列を厳密に定義するために、アルキメデス付値とε-N論法による極限の定義を行います。)

その後有理コーシー列の極限を数とみなすことによって、実数を構成します。*29

 

コーシー列の定義

コーシー列とは、数列(a_n) について

 

lim[n, m → ∞] |a_n - a_m| = 0

 

という条件を満たす無限数列のことです。*30

これは、数列の値が十分先で、ほとんど変化しなくなる数列と考えることができます。

数列の値が有理数であるようなものは、有理数のコーシー列や有理コーシー列と呼ばれます。

 

これで有理コーシー列の素朴な定義は終わりました。

しかし無限を軽々しく扱うべきではありません。

つまりイプシロンエヌ論法による数列の極限の厳密な定義が必要です。

また、絶対値|・|は数に距離を与えるもので、通常とは異なる絶対値を導入することで、実数ではない数へと完備化を行うことができてしまいます。

 

というわけで次は、アルキメデス付値とε-N論法による極限の定義を行います。

 

絶対値の一般化、乗法付値

(乗法)付値|・| とは絶対値の一般化であり、次を満たす写像です。*31

  1. |x| ≥ 0
  2. |x| = 0 ⇔ x= 0
  3. |xy| = |x| |y|
  4. 正数cが存在して、|x+y| ≤ c max(|x|, |y|)

このとき c > 1となるような付値はアルキメデス付値と呼ばれます。*32

通常の絶対値は、アルキメデス付値です。*33

 

イプシロンエヌ論法

それでは、極限を定義していきたいと思います。

数列(a_n) がある一定の値 α に収束するとは以下のことが成り立つです。

 

∀ε > 0, ∃n_0 ∈ N s.t. ∀n ∈ N [n> n_0 ⇒ |a_n - α| < ε ] (Nは自然数の集合)

 

読み上げるなら、

0より大きい任意の ε に対して、ある自然数n_0が存在する。

  nがn_0より大きい自然数ならば、a_nとαの差の絶対値がε 未満になるようなもの。

という感じでしょうか。

 

私なりに噛み砕いていうと

どんなに小さい ε に対しても 十分に大きな n_0で対応できるなら、それを α に収束していると定義するということを厳密に述べた感じになります。

 

有理コーシー列の極限としての実数

それではやっと実数の構成をしていきます。

まず、有理コーシー列、(a_n), (b_n)を用意します。

ここで、有理コーシー列に同値関係 ~ を定義します。

 

(a_n) ~ (b_n) とは lim[n→∞] |a_n - b_n| = 0 が成り立つことである。*34

なぜこのような同値関係を導入するかといえば、同じ極限を持つコーシー列を同じものとして扱いからである。さらにいうと、その数列の極限値を数として扱いたいからです。

 

それでは同じ極限値を持つ有理コーシー列全体の集合を同値関係 ~ で割って商集合を得ます。

そして、商集合の要素である同値類一つ一つを、その同値類に含まれる有理コーシー列の極限値と同一視します。これにより、実数の構成できました。

 

デデキント切断が切断の隙間を埋めるなら

こちらは有理コーシー列の収束先の隙間を埋めることによって実数を構成していると言えます。

 

このようにして得られた数の集合が実数になっているかは、(有理コーシー列の同値類)コーシー列を完備化をすることで確かめられるでしょう。(有理コーシー列の同値類)コーシー列は(有理コーシー列の同値類)の中に収束先が存在します。

 

このような性質はコーシー完備性と呼ばれます。実数はコーシー完備です。

 

 

有理コーシー列を用いて、実数を構成しましたが、実際にはここで終わりではなく、このようにして得られた数の集合に、四則演算と順序を入れる必要がありますが、割愛させていただきます。

 

そしてもうひとつ重要なこととして、有理コーシー列によって構成された数はデデキント切断によって得られる数との同型写像を持ちます。大雑把に言えば、どちらで構成しても同じ数になります。

もっと一般に実数の公理を満たすようなものは実数体、ただ一つに定まります。

 

有理コーシー列を見てみよう

有理コーシー列に慣れるため、10進法で表された数から有理コーシー列を作ってみましょう。

上の桁から一つずつ足していくことで、有理数を得て、数列を得ていきます。

また、収束先を右辺に載せます。

 

(10, 12, 12.0, 12.00, 12.000, 12.0000, ……) =: 12

(1/0.1, 12/1, 120/10, 1200/100, 12000/1000, 120000/10000, ……) =: 12

(3, 3.1, 3.14, 3.141, 3.1415, 3.14159, …… ) =: π

(1, 1.4, 1.41, 1.414, 1.4142, 1.41421, ……) =: √2 

 

今度は、漸化式によって得られる、収束する有理数列(有理コーシー列)を書いていきます。

a_1 = 1   a_n+1 = a_n/2 + 1/a_n *35

 

(1, 3/2, 17/12, 577/408,……)

 

そして、この数列は√2に収束するので、

有理コーシー列に関する同値関係 ~ において、

(1, 1.4, 1.41, 1.414,……) ~ (1, 3/2, 17/12, 577/408,……)

となります。

 

コーシー完備 + アルキメデス性 =  順序完備

有理数デデキント完備化(順序完備化)して実数を構成した方法と、

有理数をコーシー完備化して実数を構成した方法がありました。

 

ここでコーシー完備という概念とデデキント完備という概念は同じものなのでしょうか。つまり、「空でない上に有界な部分集合の上限を持つもの」という実数の連続性公理とデデキント完備、コーシー完備は同値なのでしょうか。

 

実は、実数の連続性公理とデデキント完備は同値です。つまり、片方を実数の公理として認めれば、もう片方を定理として証明することができます。

しかし、コーシー完備という条件だけでは実数の連続性公理(と同値な命題)を証明することはできません。

 

ここで疑問に思うのは、なぜ有理数のコーシー完備化は実数になるかということです。その答えは、有理数アルキメデス性、そして有理数の完備化によって受け継がれた実数のアルキメデス性にあります。

実数の連続性は、コーシー完備性とアルキメデス性から証明することができます。

 

アルキメデス性、どんなに小さい数も足し続けると…

それではアルキメデス性の説明をして、実数の話を終わらせていきたいと思います。

 

順序体Kがアルキメデス性質を満たすということは、ざっくりいえば、

順序体に無限大も無限小もないということです。

これは、順序体Kの正の元 x, yと について、

x + x +…(n個のx)…+ x + x > y

となるような自然数 n が存在していること。

式を書き直せば、∀x, ∀y, ∃n : nx > y

z = y/xとすれば、∀z, ∃n∈N : n > z  とも書けます。

 

任意の整数に対して、それよりも大きい自然数をとってくることができます。

つまり、整数はアルキメデス性を持ちます。

任意の有理数に対して、それよりも大きい自然数をとってくることができます。

つまり、有理数アルキメデス性を持ちます。

 

実数は有理コーシー列から構成することができるので、実数もアルキメデス性を持っています。*36

 

アルキメデス性を持つためには、順序体である必要がありますが、*37

逆に順序体は全てアルキメデス性を持つでしょうか。

 

答えは持ちません。実数係数有理関数の順序を辞書式順序定めた、多項式環はxという無限大元とみなせる元を含んでいるので、コーシー完備な順序体ではありますがアルキメデス性を持ちません。

 

整数の商体による有理数の構成

このように実数は、有理数で表現することができます。

 

しかし、今度は「実数を表現できてしまう有理数の存在が悪い!」のではないかと、疑い始める人もいると思います。

 

というわけで次は、整数を使って有理数を構成していきたいと思います。

(この辺から力が尽きかけているので、内容が簡潔(≠無駄がない)になっている)

 

少し話が逸れますが、有理数の特徴とは何でしょう。

有理数標数0の最小の体であるという特徴を持っています。*38

話を戻しまして、ここでは有理数 a/b のことはいったん忘れて、整数のペア同士の演算について考えます。

 

a,b,c,dを整数とし、整数のペアを (a, b), (c, d)とします。*39

また

加法を (a, b) + (c, d) = (ad+bc, bd) 

乗法を  (a, b) × (c, d) = (ac, bd) 

で定義します。

 

これは a/b + c/d = ad+bc/bd

a/b × c/d = ac/bd 

 

また、整数のペアについて、(a, b) ~ (c, d) を ad - bc = 0 であると定義します。この関係 ~ は同値関係になります。

 

整数のペア(すなわち、整数の直積)をこの同値関係で同一視します。(整数の直積の~による商集合を得ています。)

具体例を挙げると、 1/2 と 2/4も同じだとみなすということです。

 

そして、この加法乗法の定め方は、同値類の代表元の取り方に依存しません。*40

具体例を挙げると、 1/2 ~ 2/4、2/3 ~ 4/6のとき、 1/2 + 2/3 = 2/4 + 4/6 となることです。

また整数の商体に対して、有理数a/bを(a,b)に対応させることができます。

(a,b)の乗法逆元を(b,a)となります。

 

このような構成によって得られる体は、商体と呼ばれます。

今回の構成によって得られたものは、整数の商体です。

 

整数環以外からも、一般に零因子を持たない任意の可換環から、商体を構成することができます。

 

自然数のグロタンディーク群による整数の構成

このように有理数は、整数で表現することができます。

 

しかし、今度は「有理数を表現できてしまう整数の存在が悪い!」のではないかと、疑い始める人もいると思います。

 

というわけで次は、自然数*41を使って整数を構成していきたいと思います。

 

まず自然数の直積集合(ペアの集合)を考えます。

自然数a,b,c,dに対して、加法乗法を以下のように定義します。

加法 (a, b) + (c, d) = (a+d, b+c) 

乗法 (a, b) × (c, d) = (ac+bd, ad+bc) 

 

そして、同値関係 ~ について、(a, b) ~ (c, d) を a + d = b + c と定義します。

a - d = c - d と認識しても良いです。*42

具体例としては(0, 2) ~ (1, 3) ~ (2, 4) ~ (10, 12)

 

自然数の直積集合の商集合 N^2 / ~ は加法乗法に関して、矛盾なく定義されています。

 

一般に可換モノイドから、このような方法によってアーベル群を構成することができ、このようなアーベル群はグロタンディーク群と呼ばれます。

 

整数のペアによって構成された数に整数を対応させることができます。

0 := (0, 0) = (1, 1) = (2, 2) = ……

1 := (1, 0) = (2, 1) = (3, 2) = ……

2 := (2, 0) = (3, 1) = (4, 2) = ……

-1 := (0, 1) = (1, 2) = (2, 3) = ……

-2 := (0,2) = (1, 3) = (2, 4) = ……

 

 

ペアノの公理

このように整数は、自然数で表現することができます。

 

しかし、今度は「整数を表現できてしまう自然数の存在が悪い!」のではないかと、疑い始める人もいると思います。

 

というわけで自然数の満たすべき性質を定めた、ペアノの公理並びに、自然数の加法乗法の再帰的定義を行います。

 

Nを集合、0をNの元、sucを写像として、ペアノの公理(ペアノシステム)を定義します

  1. 0 は自然数である 0∈N
  2. 任意の自然数には、その後者が存在する ∀n ∈ N:suc(n)∈N 
  3. 0はいかなる自然数の後者ではない  0 ∉ suc(N)
  4. 異なる自然数は異なる後者を持つ*43 ∀n1,n2∈N: n1 ≠ n2 ⇒ suc(n1) ≠ (n2) 
  5. 0がある性質を満たし、kがある性質を満たしたならばその後者suc(k)もその性質を満たすとき、全ての自然数はその性質を満たす。*44 ⇒ A = N

5は数学的帰納法の原理と呼ばれるものである。

これで自然数は定義できたが、まだ加法と乗法が足りていない。

それでは追加していこう。

加法

  1. ∀n: n + 0 = n
  2. ∀n,∀m: n + suc(m) =  suc(n + m)

乗法

  1. ∀n: n × 0 = 0
  2. ∀n,∀m: n × suc(m) = suc(n × m) + n

 

実際にはこのようにsucの中身の数がどんどん小さくなるように(再帰的に)定義できることを示す必要があるのですが割愛させていただきます。

また、ペアノの公理を満たすような集合Nとその元0、関数Sの組 (N, 0, S)はペアノ構造と呼ばれ、同型を除いて一意です。*45

 

これでペアノの公理による自然数の構成ができました。

しかし本当に、自然数全体の集合 N、自然数の元 0、写像sucは存在するでしょうか。

 

そこで今度は集合論、特にZFによって自然数を構成していきたいと思います。

 

ZF(ツェルメロ=フレンケル集合論)とノイマンの構成法

ツェルメロ=フレンケル集合論はいくつかの公理からなっています。

そもそもなぜ、自然数をZFで構成できるかというと、ZFが整礎な集合の概念を形式化したものだからです。(自然数は0という最小値を持つ整礎な集合です)

ここでは公理のうち、必要なものを適宜使用して、自然数を構成します。どのような公理があるか気になる人は調べてみてください。

 

空集合 ∅ が存在します。(置換公理より)

0 を ∅ で定義します。

0 := ∅

 

集合 {∅} が存在します。(∅と対の公理より)

1 を {∅} で定義します。

1 := ∅

 

集合 {∅, {∅}} が存在します。(∅, {∅} と対の公理より)

2 を {∅} で定義します。

2 := {∅, {∅}}

 

集合 {∅, {∅}, {∅, {∅}} }  = {∅, {∅}} ⋃ {{∅, {∅}}} が存在します。({∅, {∅}} と対の公理、和集合の公理より)

3 を {∅, {∅}} ⋃ {{∅, {∅}}} すなわち、2⋃{2}で定義します。

3 := 2 ⋃ {2} = {∅, {∅}, {∅, {∅}} }

 

…………

 

同様にして、

n を次のように定義します。

n := n-1 ⋃ {n-1} 

 

また suc(n-1) を n-1 ⋃ {n-1} の略記とします。

 

 

次にこれらを含むような無限個の要素を含む帰納的集合(無限系譜)を構成していきます。(無限公理より)

X := {0, 1, 2, 3, 4, …… ω, …… ω+ω, ……}

 

このままでは自然数以外の余分なものを含んだ状態ですから、余分なものを含まない、すなわち帰納的集合の中で最小の集合を得たいです。

 

A, Bを帰納的集合とする。(無限公理より)

P(A), P(B)をA,Bの冪集合とする。(冪集合の公理より)

P(A), P(B)の要素、それぞれの帰納的集合の共通部分をω_A, ω_Bとする。(置換公理より)

 

こうして得られるω_A, ω_Bは帰納的集合A,Bの取り方によらず、

ω_A = ω_B

ここで ω_A を Nと定義します。

 

こうして最小の帰納的集合 N が得られました。

 

あとがき

本当は12/25に出す予定で、その当日から書き始めるという無計画な始まりました。1万5000文字という、そこそこの大作ができましたが、どっちかっていうと期限を守れた方が良かったかなという感じです。

(期限を無視してこのブログを書いていたので、冬休み全てを溶かしてしまい、課題があああああああああ)

 

有限体やp進数、代数的整数、代数的数、ガウス整数、多項式、有理関数などにも触れたいと思ったのですが、

数の構成がボトムアップ的に説明されることが多く、この記事では何か別の特徴をつけたいと考え、複素数からZFに辿り着くというトップダウン的に説明を行ったため、他の数に触れることはあまりできませんでした。

 

そもそも知識もまだまだ足りていないので、間違ったことをできるだけ書かないように、色々調べるのに時間がかかりました。ただ、それでも間違った内容が含まれているかも知れませんので、気づいた方は連絡してくれると幸いです。

 

このブログを書くために色々調べたことで、全然理解していない分野がたくさんあるんだな〜と感じました。今後は、今回初めて知った概念、単語、分野を理解できるように勉強していきたいです。

 

参考文献・おすすめ本、

参考にしたサイトや(これから読みたい)おすすめ本を書いていきます。

 

ペアノの公理・ZFC系

琴葉姉妹の数学キソ論:第3回「Re:ゼロから始める異世界数学」 - ニコニコ動画タイトル(並びに記事の構成)はこちらを着想を得て決めました。

「琴葉姉妹の数学キソ論」 tobyさんの公開マイリスト - ニコニコ

ZFC公理系について:その1 - Rei Frontier Tech Blog

公理雑感 - 数学してよアライㄜん

自然数 - 数学 | ++C++; // 未確認飛行 C

集合を使って「自然数」を作る|ペアノの公理を満たすシステムの構成 | 蛍雪に染まる。

自然数の構成~集合論からの出発 | Mathlog

ペアノの公理で誤解しやすいポイント | Mathlog

ペアノの公理 - Wikipedia

自然数 - Wikipedia

ゲーデルの不完全性定理 / 証明不可能性を証明する - YouTube

ツェルメロ=フレンケル集合論

 

数の構成全般

https://www2.math.kyushu-u.ac.jp/~hara/lectures/08/realnumbersv2.pdf

https://mathematics-pdf.com/pdf/construction_of_numbers.pdf

数を創る話〜自然数から複素数への構成〜 - YouTube

 

整数

整数 - Wikipedia

 

有理数

有理数 - Wikipedia

 

実数

実数 - Wikipedia

6つの同値な「実数の連続性公理」まとめ(解析学 第I章 実数と連続9)

[微積] そもそも実数って何? 歴史から学ぶ実数の定義 - YouTube

[微積] 実数の公理的定義とは - YouTube

 

複素数

複素数 - Wikipedia

4.1節 複素数

 

まだ読んでいないので僕が読みたい おすすめ本

数の世界 | ブルーバックス | 講談社

https://www.maruzen-publishing.co.jp/item/?book_no=294859

数学の基礎 - 東京大学出版会

解析入門1 - 東京大学出版会

https://ja.wikipedia.org/wiki/自然数#参考文献

https://ja.wikipedia.org/wiki/整数#参考文献

数と計算の歩み (牧野書店): 2009|書誌詳細|国立国会図書館サーチ

実数論講義|日本評論社

超越数とはなにか | ブルーバックス | 講談社

 

編集履歴

2023/4/15 ペアノ算術に関する記述の削除、その他軽微な編集

*1:正確に述べれば、複素数とは実数の代数的閉包であるということを主張している定理です。

*2:四則演算と両立しなくて良いのであれば、辞書式順序による全順序関係を入れることができます

*3:複素数実数体を係数とする、1, iの線型結合で表される2次元ベクトルであること

*4:二次方程式において、虚数解の√-a という部分を√-1√a と分けたくなると思うのでいうほど、突然ではないと思いますが。

*5:ω, √i はそれぞれ、ω = (1+√3i)/2, √i  = (1/√2 + 1/√2 i) と i を用いて表すことができ、

逆に i は、i = √2√i -1,  i = (2ω-1)/√3 とω, √i を用いて i を表すことができる。

よって、a+bωもa+b√i 複素数体と同型である。

*6:こちらの「2乗してはじめて0になる数」とかあったら面白くないですか?ですよね - アジマティクスで二重数が説明されていますので興味がある方はこちらを読むのも良いでしょう。

また二重数は自動微分といった応用がある

*7:分解型複素数の積の可視化をした動画のツイートもおすすめです

*8:ε, j はそれぞれ、二重数 分解型複素数と呼ばれ、それぞれ体ではなく実数係数環を成す。、二元数と呼ばれる複素数の仲間といえる。

*9:実数の順序対のこと

*10:そのため (a, b)によって、a+biを定義しても良いでしょう

*11:これらは、多元数 と呼ばれるものの一種です。数を拡張する中で、実数で成り立っていた様々な性質が一般には成り立たなります。

複素数では順序完備性(アルキメデス付値に対するコーシー完備性は失っていない)を失う、

四元数では積の可換性ではなくなり、八元数では積の結合的ではなくなります

*12:3次以上の実数係数多項式既約にならないため、既約な2次多項式で割っている

*13:可換環から極大イデアルによって剰余環を得るとき、それは体となります。

素数の一般化である、素イデアル可換環PIDであるなら、極大イデアルとなります。

例として、整数環を素数で割った剰余環(Z/pZ)が体になります。

*14:3次以上の実数係数多項式が既約にならないことから、

自身を除く実数の有限次拡大は2次拡大である複素数しか存在しないことがわかります。

*15:なぜ、有理数に留まらず実数を定義するのでしょうか。それは有理数が極限操作に対して閉じていないためです。

階乗の逆数は有理数ですが、その無限和はネイピア数 e に収束します

*16:実数の連続性の公理は、これ以外にも様々な同値な公理が存在します。詳しくはこの6つの同値な「実数の連続性公理」まとめ(解析学 第I章 実数と連続9 をおすすめします。

*17:有理数体も順序体であって、空でない上に有界な部分集合を持つことができる集合ですが、必ずしも上限を持ちません。

*18:無限桁の0が循環する循環小数と考えることができます

*19:10進法のみに限らず、N進位取り記数法は有理数を有限桁の小数、または循環する小数として表わすことができます。

*20:ある自然数nについて、n進法で循環しない小数は、全てのN進位取り記数法で循環しません。

*21:公理主義的実数論 | 実数の定義 | 実数 | 数学 | ワイズでは無限小数が扱いやすい概念ではないことが述べられています。

*22:パターン1が起きると仮定すると有理数の稠密性から矛盾する。詳しく知りたい人はこちらページがおすすめです

*23:すなわち実数の連続性の公理を「集合Kの任意のデデキント切断(A, B)に対して、いずれか一方のみが成り立つことを公理とすることがあります。

(パターン2)Aに最大元が存在するが、Bに最小元が存在しない、

(パターン3)Aに最大元が存在しないが、Bに最小元が存在する

*24:A = {x | x ≤ r}, B = {x | r < x} と A = {x | x < r}, B = {x | r ≤ x} は異なる切断ではある。しかし、切断を数と同一視する際、2種類の切断は同値であるとします。

*25:こちらの公開されているpdfに詳しく載っています。

*26:整数におけるデデキント切断は下組は最大元を、上組は最小元を持ちます。

このとき最大元、最小元のどちらか片一方の数と、整数の集合のペアを同一視することができます。そしてそれは結局のところ整数なのです。

 

こちら整数のデデキント切断を考えるきっかけになったブログです。

*27:小数の格桁を一つずつ足して得られる級数による数列を考えることができ、それは有理コーシー列となります。

*28:また、一般の距離空間に対してもコーシー列の定義が可能であり、それは完備距離空間を定義します。

*29:有理数同士の和と積は有理数になります。では無限回有理数を足したり、掛けたりしたものは必ず有理数になるでしょうか。

答えはなりません。階乗の逆数の和である 1/0! + 1/1! + 1/2! ……は明らかに有理数の無限和です。この無限級数無理数である、ネイピア数 e に収束します。

*30:有限数列(a_1, a_2, …… a_n)に対して、a_n+1 := a_n、 a_n+2 := a_n+1 ……と延長することで、有限数列はコーシー列であるとみなせます。

*31:加法付値と区別する際には、単に絶対値とも呼ばれる

*32:オストロフスキーの定理より乗法付値は、自明な付値、通常の付値、p-進付値に同型です。

*33:c = 2のとき、|x+y| ≤ |x|+|y|という三角不等式を満たします。

*34:反射律、対称律、推移律を調べることでこれが同値関係であることが確かめられます。

*35:この漸化式はf(x) = x^2 -2 としたとき、f(x) = 0 の解をニュートン法で求める際に現れます。

*36:デデキント切断による構成を行なっても、アルキメデス性を持つことが証明できます

*37:アルキメデス性は通常、順序体であるものに対して考えますが、付値体についてのアルキメデス性を考えることがあります。付値体Kの0でない元、xについて|x+x+…(n個のx)…+x+x| > 1 が成り立つときKはアルキメデス的と言われます。

通常の絶対値がアルキメデス付値と呼ばれるのはこのためだと考えられます。

複素数体は順序体ではありませんが、この意味でアルキメデス的です。

*38:これは標数0の任意の体は、有理数と同型な部分体を持つということです

*39:a, cを整数、b, dを自然数とする場合もある

*40:このとき、この演算はwell-diefinedである、または矛盾なく定義できるといいます

*41:ここでは自然数は0を含みます

*42:ただしここではまだ加法逆元は定義されていないことに注意してください

*43:写像sucが単射であるということである

*44:まるで一つの公理のような形をしているが実は公理図式と呼ばれる無限個の公理である。ここでは、ある性質というのは任意に考えられるのだが、ある性質を満たすかどうかの判定には論理式が必要である。つまりこの公理は論理式の量子化を行いたいのだが、しかし一階述語論理において論理式はできない。なのでここで撮られている手法は論理式の量化を行わず、直接全ての論理式を集めるという手法である。つまりこの公理は論理式一つ一つに存在している。)(A⊂N ⋀ 0∈A ⋀ (k∈A ⇒ suc(k)∈A

*45:公理を満たすモデルが一意なとき、その公理は範疇的と呼ばれます。実数の公理などは範疇的な公理の例です。範疇的でない例として、ペアノ算術は超準モデルを持つため範疇的ではありません